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平成24年度の文部科学省学校保健統計調査によると,「裸眼視力1.0未満の者」の割合は、幼稚園27.5%,小学校30.7%,中学校54.4%,高等学校64.5%と報告されており,10年前と比較すると幼稚園3.7%増,小学校19.5%増,中学校10.9%増,高等学校1.0%増となっています.この調査結果より,最近10年間における小学校での近視進行が突出しており,小学校(学童期)が近視の進行について重要な意味を持つ時期であると言われております.また,学校検診において視力「不可」と診断される「裸眼視力0.3未満の者」についての調査でも,小学校においては,最近10年間で,全学童に対する割合が5.5% から8.6% と大幅に増加しており,近視の進行とともに重症化も進んでいるものと考えられます.その影響から,高等学校における「裸眼視力0.3未満の者」の割合も,この10年間で33.6% から36.7% と増加しており,国民全体の近視の重症化が進行しているものと考えられます.

一方,近年になって,近視の矯正については,眼鏡だけでなく各種コンタクトレンズあるいは屈折矯正手術の進歩によってその選択肢が増え,生活様式や本人の要望に合った矯正法を選ぶことができるようなりましたが,近視の進行は非可逆的であり,社会的に活動性の高い年齢層が冒されることから,近視であること自体がQOLの低下に繋がるものと考えられます.加えて,医学的には,強度近視に伴う網膜剥離,近視性網膜症,近視性黄班変性症,緑内障あるいは白内障などのリスクが増すことで,より重篤な眼疾患の合併も懸念されます.

以上より,近視の進行が急激に進むと考えられる学童期において,近視の進行を抑制することができれば,青年期以降の社会活動におけるQOLが維持できるだけでなく,重篤な眼疾患による失明のリスクを軽減できるものと考えられ,学童期における近視進行の予防法の確立は,社会的にも重要な課題とされております.この課題に対しては,従来から,トロピカミド,アトロピンなどによる薬物療法,累進眼鏡などの眼鏡着用,オルソケラトロジーレンズなどのコンタクトレンズ装着あるいは視力回復訓練など様々な方法が試みられており,いまも近視進行予防法の確立に向けて研究が続けられています.

非選択的抗ムスカリン作用を持つアトロピンは,その毛様体筋弛緩作用による調節の遮断,眼軸長延長の抑制などの作用により,近視の進行を抑制することが以前より知られており,近年の臨床試験においてもその効果についてのエビデンスが得られています.しかし一方で,通常用いられている調節麻痺用点眼剤(日点アトロピン点眼液1%)では,散瞳作用と調節麻痺作用が強く現れるため,学童への使用は侵襲が大き過ぎるものと考えられてきました.これに対して,2012年に低濃度(0.01%)のアトロピン点眼剤においても近視進行抑制作用があることが報告され,散瞳作用や調節麻痺作用も少ないことから,近視進行予防薬として使用できる可能性が示唆されました.
今回,これらの報告をもとに,我が国においても低濃度(0.01%)のアトロピン点眼剤の近視進行予防薬としての可能性を検討するため,もっとも近視進行が急激に進むと考えられる学童期における,低濃度(0.01%)アトロピン点眼剤投与による,近視進行抑制効果と安全性を調べる臨床研究を行うこととしました.

本研究の実施により、学童近視に対する薬物治療の意義が一層明確になり、今後、先生方が学童近視の診療方針を決める上でも重要な指針が示されると確信しております.
ここに、本研究に参加いただく患者さま、共同研究者の皆さま、および本研究の実施に関わるすべての関係者の皆さまに、本研究へお力添えを賜りたく、切にお願いを申し上げる次第です.

研究代表者 木下 茂
京都府立医科大学特任講座 感覚器未来医療学 教授
〒602-0841 京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465番地

木下茂(きのしたしげる)

研究代表者プロフィール

木下 茂(きのした しげる)
京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学教授

学歴
昭和49年3月 大阪大学医学部卒業
職歴
昭和49年7月 大阪大学医学部附属病院眼科研修医
昭和53年9月 大阪大学医学部眼科学教室助手
昭和59年7月 大阪労災病院眼科部長
昭和63年3月 大阪大学眼科学教室講師
平成4年4月 京都府立医科大学眼科学教室教授
平成15年4月 京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学教授
平成27年3月 京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学教授 停年退職
平成27年4月 京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学教授
※ 平成19年4月〜
  平成21年3月
京都府立医科大学附属病院 病院長
※ 平成24年1月〜
  平成27年3月
京都府立医科大学 副学長